恋と気づくまで6

季節は夏本番を迎えた7月。

今日も朝からジリジリと太陽が照りつけていた。

コンクリートの建物で覆い尽くされた町では、暑い空気が外へ逃れる事なく、アスファルトの上を渦巻き更に熱を放つ。

それはまるで都会のジャングルのようだ。

その暑い町の某所。

とあるお店にて、休憩中の櫻井の声が聞こえた。

うめー!やっぱ、涼しい店内で食べる飯は最高だわ

うんめ!

冷房が効き涼しい店内は、今日もたくさんの客でにぎわっていた。

隣同士で昼食を食べる櫻井と大野は、お互いに頬をもごもごと動かしながら料理を褒めあう。

その後ろでウェイターである二宮が、客に向かって営業スマイルを振りまいていた。

俺はお隣だからすぐだけど、翔君、昼飯時にお店来れるの?

うん。一時期は忙しかったから来られなかったけど、最近ちょっとだけゆとりがでてさ

櫻井の脱いだグレーの上着は、足元の鞄の上に置かれている。

ワイシャツの袖から白い腕が伸び、銀色のフォークでくるくるっとパスタを上手に巻いていた。

釣り三昧で真っ黒な大野と、この夏仕事が忙しくて全く遊べていない白い肌の櫻井は、並ぶとまるで白黒のオセロのようだ。

厨房でせっせとサラダを作る相葉が、二人にちらと視線をやって何か言いたげにしていたが、汗だくになって料理を作っている松本がすぐ横にいるためになかなかそれが果たせないらしい。

外の暑さのせいでいつもより早く無くなりかけたレモン水は、すぐに二宮から注がれる。

櫻井はお礼を言いながらウェイターの顔を見上げた。

いつものように涼しげな表情だが、やはり忙しく暑いのか、その額には汗がわずかに滲んでいる。

この暑さの中、翔さんよくこんなとこまで食べに来ますよね

同じように大野のコップにも注ぎながら呆れた様に笑う彼。

それに対して、櫻井はさも当たり前とでも言うように応えた。

だって、お前らがいるじゃん

一瞬、きょとんと目を丸くした二宮は、言葉の意味を理解するなり反応に困ったように口元を歪ませる。

どんだけ俺らのこと好きなんですか

その反応に満足したのか、櫻井は隣の大野の肩をその白い腕でガチリと組む。

ずっと話を聞いていた大野も、頭を揺らしながら笑う。

それを見て更に言葉を続けようとしたウェイターは、客に呼ばれてしまった。

残された大の男二人がカウンターで肩を組んでいる姿は異様に目立つ。

俺の店でそういうことするの、やめてくれない?

気だるげな声が櫻井の耳に入る。

厨房からむすりとした表情をこっちに向けていたのは予想通り、松本だった。

隣の相葉がついに我慢の限界を迎えたのか、独特の笑い声をあげる。

え?何?何そんなに怒ってんの?俺、なんか悪いことした?

眉を下げながらまわしていた腕を外し、松本の顔色を伺う櫻井。

すると松本ははっとしたようにその場を繕いだした。

あ、いや暑いのにそんなの見せられたら益暑くなるって言うか

おお、ごめんごめん、そこまで気がまわらなかったわー

そんなの、気を回せるほうがすごいよ。ってか、大ちゃんと翔ちゃん色違いすぎ!面白すぎ!

先ほどから笑っていた相葉が、リズムの崩れた息を必死で整えながら会話に入ってくる。

お前は笑いすぎ。ねぇ翔君、今日帰りは何時ごろ?

んー?うん。頑張れば、早いかな?多分

なら、頑張ってよ。この前言ってたトマトソースで煮込むやつ、やってみようと思うから

え、マジ?あの俺が言ったやつ?うわー!頑張る!ぜってえ早く帰る!

そうしてね

素直な櫻井の返事に、先ほど不機嫌な言葉は発したとは思えないほど無邪気な笑顔を浮かべる松本。

そこに聞こえてきた、控えめな声。

あのー、潤君。言い辛いんだけど、注文いいですかね

わ、ごめんっ、何?

慌てたように二宮へ返事をした松本は、嬉しそうに調理場へともどった。

その後姿を見送る相葉は何か思う事があったのか、右手を口の横に当てながらぼそぼそと櫻井に話しかけてきた。

翔ちゃんと松潤ってさー

うん?

なんか最近同棲はじめた恋人同士みたいだよね

相葉は子供の頃からの付き合いで、彼が昔から時突拍子も無いことを言い出す奴だということは、十分知っているつもりだった櫻井。

この言葉にだって悪意が一切こもっていない事もニコニコした表情を見ればすぐに分かる。

ははっ!なんだそれっ!!

なんか、そう見えるって思っただけ〜と言って、さっさと持ち場へ戻った相葉の先に、厨房で働く同居人の姿をが見えた。

ぬぐったばかりのこめかみから、再び汗が流れていた。

料理というものは、想像以上に暑くて体力を使うらしい。

無駄に男前な表情は、真剣に目の前の食材と向き合っている。

そんな彼を見た櫻井の緩やかな傾斜の肩が、息を吐き出すのと同時にさらに下へとさがった。

智君は?俺らってどう見える?

視線は前に向けたまま発した言葉。

まともに目を見て尋ねる事は、なぜか出来なかった。

なのに、

スゥ、スゥ

なかなか返事がないと思い、ちらりと瞳だけを動かす。

その目線の先にあったのは、なんとも幸せそうな大野の寝顔。

寝てんのかよ!どうりでさっきから声が聞こえないと思ってたんだ!

恋人同士?

そんな訳ないない。

この暑さのせいで、きっと頭の中までみんな茹っちゃってるんだ。

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